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神戸地方裁判所 昭和56年(行ウ)25号 判決 1983年9月30日

原告

加羅孝

笠谷純

岸本晃

田村幸雄

右四名訴訟代理人弁護士

麻田光広

丹治初彦

分銅一臣

横井貞夫

被告

宝塚市

右代表者市長

友金信雄

右訴訟代理人弁護士

熊野啓五郎

中山晴久

高坂敬三

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告加羅に対し金一万一三二〇円、原告笠谷に対し金七九二八円、原告岸本に対し金一万一三一二円、原告田村に対し金八八一六円及び右の各金員に対する原告田村については昭和五六年五月一六日から、その余の原告らについては同年四月一六日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告らは、いずれも被告(宝塚市)の職員であるが、それぞれ別紙一覧表「休暇日」欄記載の日時について、事前に同表「種別」欄記載の休暇の申請をし、被告の承認を受けて勤務しなかった。

なお、同表「種別」欄記載の休暇のうち、代休とは、被告の「職員の勤務時間その他の勤務条件に関する条例施行規則」(以下「本件規則」という。)七条により、「勤務を要しない日又は休日に勤務した職員に対しては、その請求により業務に支障のない限り、代休を与える」とされているものであるが、被告の「職員の勤務時間その他の勤務条件に関する条例」(以下「本件条例」という。)二条三項によれば、日曜日は勤務を要しない日とされ、同六条一号によれば、国民の祝日に関する法律に規定する休日は休日とされている。原告加羅は昭和五五年八月三一日の日曜日に、原告笠谷は同五四年五月二〇日の日曜日に、原告田村は同五六年一月一五日の休日に、それぞれ勤務したので、それに対する半日の代休の請求をしたところ、被告はいずれも承認したのである。

また、四月一日特別休暇とは、同四六年宝塚市条例第四四号による改正前の本件条例六条三号により毎年四月一日が市制施行記念日として休日とされていたのが同四六年に廃止された代わりに、同四七年以降、本件条例七条、一五条に規定する特別休暇(有給)の一つとして、本件規則一六条八号を根拠として、毎年一月五日から一二月二八日までの間の一日が休暇として与えられるものである。原告岸本はこれを申請したところ、被告は承認したのである。

2  ところが、被告はその後、同表「承認取消日」欄記載の日に、右の各休暇の承認を取消し、右各休暇日の日時について原告らが欠勤したものとして取扱い、その二か月ないし三か月後である同表「支給日」欄記載の日に原告らに対し支給すべき賃金から、右の日時分の賃金に相当する同表「控除額」欄記載の金員を控除して、賃金を支給した。

3  しかし、被告の右休暇承認取消及び承認取消後二か月ないし三か月遅れの賃金控除は、いずれも違法である。

4  よって、原告らは被告に対し、右各控除額相当の各未払賃金及びこれと各同額の労働基準法一一四条所定の附加金並びに右の各金員に対する弁済期である原告田村については同五六年五月一六日から、その余の原告らについては同年四月一六日から、各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1、2項の各事実は、いずれも認める。

同3項は争う。

三  抗弁

1(一)  宝塚市職員労働組合(以下「市職労」という。)は、同市教育委員会の米飯給食導入実施計画に反対するため等の闘争の一環として、同五六年二月四日から六日までの三日間及び同月一九日から二五日までの土曜日、日曜日を除く五日間、いずれの日も職員の勤務時間内である午後三時から五時までの二時間、宝塚市役所本庁舎内での休暇座り込み闘争を計画実施した。

右休暇座り込み闘争は、市職労の組合員(被告の職員、以下同じ。)が、年次休暇(以下「年休」という。)、代休あるいは四月一日特別休暇等の休暇をとったうえ、市庁舎内に座り込むというもので、右の期間中に座り込みをした市職労の組合員の数は、延べ五〇〇ないし六〇〇名にものぼった。

(二)  しかしながら、労働者がその主張を貫徹する目的で、集団的に休暇をとって職場を離脱・放棄し、業務の正常な運営を阻害することは、その実質は休暇に名を藉りた同盟罷業にほかならない。

したがって、市職労の組合員が右の休暇座り込み闘争のためにした右の休暇権の行使は、本来の休暇権の行使とはいえず、その者について賃金請求権は発生しない。

2(一)  原告らは、いずれも市職労の組合員で、右の休暇座り込み闘争のために、本件の代休または四月一日特別休暇の申請をしたものであり、現に当該休暇日の午後三時から五時まで右の座り込みに参加したものである。

(二)  したがって、原告らの本件休暇権の行使も、本来の休暇権の行使ではなく、本件休暇日の日時について原告らの賃金請求権は発生していない。

3  なお、被告は、右の休暇座り込み闘争に参加したことが判明した市職労の組合員(原告らを含む。)について、休暇の承認取消をしたのであるが、その際、年休をとっていた者については、年休は時間単位で付与することとなっているため座り込み参加時間を超えて年休をとっていた場合でも、座り込み参加時間のみの承認を取消した。しかし、代休は半日単位で、四月一日特別休暇は一日単位で、それぞれ付与することとなっているため、これらの休暇をとっていた者については、その単位で承認取消をせざるをえず、結果として座り込み参加時間以外の時間についても承認を取消したのである。ただ、被告はその際、不利益を与えることを避けるため、これらの休暇承認取消対象者(原告らを含む。)に対し、当該休暇日の座り込み参加時間を除く欠勤時間について改めて年休申請をすればこれを承認し、その時間は欠勤扱いにしない旨通知し、この手続をとるよう勧奨した。ところが、原告らはこの手続をとらなかったので、原告らについては、結局当該休暇日時の全部を欠勤扱いにせざるをえなかったのである。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1項(一)の事実中、市職労が被告主張のような休暇座り込み闘争を計画実施したとの点は否認する。

同月四日から六日までの各午後三時から五時までの二時間市庁舎内で座り込みをしたのは、市教育委員会の米飯給食導入実施計画に反対していた市民団体及び市職労の個々の組合員である。

2(一)  同2項(一)の事実中、原告らが市職労の組合員であること及び原告らが被告主張の日時に座り込みをしたことは認めるが、その余は否認する。

原告らは、市職労ないし他の組合員の行動とは全く無関係に、それぞれの私的な都合により休暇の申請をしたものであり、当該休暇日にもそれぞれ私用を行っていたところ、たまたま座り込みの現場にいきあわせたので、それぞれの個人的な判断から座り込みをしたにすぎない。

(二)  同2項(二)の主張は争う。

代休は、業務命令により本来の休暇日(休日又は勤務を要しない日)に働いたことに対し、その見返りとして与えられるものであるが、本来の休暇日はいかなる目的にも自由に使用しうるものであり、労働日ではないのであるから、その日の行動が争議行為と評価される余地はなく、これはその代替日である代休についても同様である。

また、特別休暇についてもその使用目的は条例上制限されておらず、右休暇日と同様自由に使用しうるものである。

3  同3項のうち、代休又は四月一日特別休暇の付与単位についての主張は争う。

被告主張の付与単位は、法律又は条例には定めがなく、予め労働者への周知徹底もされていないものであるから、半日又は一日単位に限定すべき合理的根拠はない。

第三証拠(略)

理由

一  請求原因1、2項の各事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、まず、抗弁のうち、休暇承認取消及びこれに基づく欠勤取扱いの適否について判断する。

1(一)  代休の根拠規定である本件規則七条は、本来勤務を要しない日とされている日曜日もしくは休日に勤務させた職員に、その代替として休暇をとる権利を認めたものと解される。したがって、代休は、日曜日もしくは休日に勤務したという要件をみたした職員にその権利として生じ、任命権者はこれを与える義務を負うのであって、右の要件をみたした職員が特定の日時を代休として指定することにより、任命権者が事業の正常な運営を妨げることを理由として拒否権を行使しない限り、代休は成立し、その日時における就労義務が消滅するものと解するのが相当である。すなわち、代休の成立要件として任命権者の承認は必要でないというべきであり、現実にされる「承認」は、拒否権を行使しない旨の意思表示であると解される。

そしてまた、代休は日曜日もしくは休日の代替であるから、一般の休日と同様、職員がその時間をいかなる目的に利用しようとも自由であり、任命権者が代休の利用方法について干渉、介入することは許されないものと解すべきである。したがって、代休の承認取消を代休の効果を事後に否定する趣旨の意思表示であると解するとしても、職員が代休の時間中に行った行為を理由として、任命権者が後に承認を取消して代休の効果を否定することは許されないものというべきである。

(二)  四月一日特別休暇の根拠規定は必ずしも明確ではないが、本件規則一六条八号がその直接の根拠規定であると解される。すなわち、本件条例七条及び一五条は特別休暇について規定しているが、これをうけて本件規則一六条八号は、「任命権者が特別な理由によりとくにあらかじめ認めたとき」「そのつど認める期間」について特別休暇を与えることができる旨規定しているところ、(証拠略)によれば、被告においては同四七年以降、毎年四月一日現在の在職者について、右規定を適用してその年の一月五日から一二月二八日までの間の一日を四月一日特別休暇として与えることとされていることが明らかであって、右のような包括的な形で特別休暇を与えることにつき任命権者があらかじめ認めているものと解されるのである。そうすると、四月一日特別休暇(以下「特休」という。)についても右の規則及び包括的な承認により、それが職員の権利として認められているものと解するのが相当である。したがって、特休の法的性質についても代休と同様に解すべきであるから、特休の成立要件として任命権者の承認は不要であり、職員の休暇日の指定により、成立するが、条理上、任命権者は事業の正常な運営を妨げるときは拒否権を行使できるものと解される。また、特休中の職員の行為を理由として、後から休暇承認取消という形で休暇の効果を否定することは許されないものというべきである。

2(一)  ところで、最高裁判所は年休と同盟罷業との関係について次のように判示している。

「いわゆる一斉休暇闘争とは、これを、労働者がその所属の事業場において、その業務の正常な運営の阻害を目的として、全員一斉に休暇届を提出して職場を放棄・離脱するものと解するときは、その実質は、年次休暇に名を藉りた同盟罷業にほかならない。したがって、その形式いかんにかかわらず、本来の年次休暇権の行使ではないのであるから、これに対する時季変更権の行使もありえず、一斉休暇の名の下に同盟罷業に入った労働者の全部について、賃金請求権が発生しないことになる。」(最高裁判所第二小法廷同四八年三月二日判決・民集二七巻二号一九一ページ参照)

すなわち、実質的にみて休暇に名を藉りた同盟罷業とみられるような形で休暇権を行使することは、正常な労使関係を前提とし、事業の正常な運営との調和を保つべきことが予定されている休暇制度の枠を超えるものであるといわざるをえず、その権利行使としての効果が否定されてもやむをえないものであるから、休暇権の行使がその実質において同盟罷業とみうる場合には、正当な休暇権の行使としての効果を生じないものというべきである。

ところで、前述の休暇自由使用の原則は、休暇が本来の休暇権の行使として適法に成立したことを前提として、その利用方法に関して認められる原則であるのに対し、一斉休暇闘争における右の理論は、休暇権の行使方法の問題に関し、一定の場合にはその権利行使としての効果を否定される場合があるというものであって、両者は矛盾するものではない。

そして、右の理論は、一斉休暇闘争に利用される休暇の性質によって区別すべき合理的根拠は見出し難いから、年休の場合に限らず、代休及び特休の場合にも同様にあてはまるものと解するのが相当である。

(二)  右の理論によれば、本件において、被告が原告らの本件各休暇の承認を取消し、欠勤扱いにしたのは、原告らの本件各休暇権の行使について、それが休暇制度の枠を超えるものであると判断されたため、休暇権の行使としての効果を否定した趣旨であると解される。そして、この被告の措置の適否は、原告らの本件各休暇権の行使が、いわゆる休暇闘争として実質的な同盟罷業、すなわち、労働者がその主張を貫徹することを目的として行う集団的労務の不提供であって、その所属の事業場における業務の正常な運営を阻害するもののためにされたものであるか否かにかかることになる。

3(一)  (証拠略)を総合すると、次の事実を認めることができる。

(1) 同五六年二月四日から六日までの三日間、いずれの日も午後三時から五時までの二時間、市職労の組合員を含む数十名程度の者が、宝塚市役所本庁舎二階の教育委員会前の廊下において、同市教育委員会の米飯給食導入実施計画に反対するため、座り込みをした。

右の座り込みは、市職労が、同五四年以来、米飯給食の導入方法について被告当局との団体交渉で申入れをしてきたにもかかわらず、同市教育委員会が委託炊飯方式を強行しようとしているとして、その白紙撤回及び団体交渉での解決を求めるという目的の下に、休暇座り込み闘争として同五六年一月末ころに計画したうえ実施したものである。市職労は当初、組合役員及び学校支部組合員による三〇名程度の規模の座り込みを計画していたが、実際には、他の組合員及び同様に委託炊飯方式に反対していた市民グループの者も参加したため、規模が多少大きくなった。

(2) 市職労は、右の座り込み闘争を計画したのと同じころ、分限条例改正、出産休暇の改善等計五五項目の職場要求を実現させるため、中央委員会で休暇座り込み等の戦術行使を採択したうえ、同五六年二月一九日、二〇日及び二三日から二五日までの計五日間、いずれも午後三時から五時までの二時間、休暇座り込み闘争を行うことを計画した。同計画によれば、同月一九日及び二〇日は五〇名程度、二三日以降の三日間は一〇〇名程度の組合員が休暇届を提出したうえ座り込みをするというものであったが、市職労は、これに基づき、右日時に同市役所三階の秘書課前のフロアーにおいて、職場要求実現のための座り込みを実施した。

(3) 市職労では、同五二年ころから、勤務時間内に座り込みを行う場合には、争議行為とみられることを避けるため、組合員が休暇をとったうえ座り込みを行うという戦術を慣行的にとっていた。市職労は、右の米飯給食導入実施計画反対のため及び職場要求実現のための各休暇座り込み闘争について、「職場討議資料」(<証拠略>)を作成し、これに基づいて職場討議を行い、また、各休暇座り込み闘争の実施を、市職労発行の「市職労ニュース」等を通じて一般組合員に伝えた。

右各休暇座り込み闘争において、年休等の休暇をとったうえ座り込みをした組合員の数は、延べ五〇〇ないし六〇〇名にのぼった。

(4) 一方、右の市職労ニュースや職場討議資料等により、右各休暇座り込み闘争が計画されていることを知った被告当局では、市職労の執行委員長に対し、休暇座り込み闘争は違法であるから自重するよう警告し、また、各部課長等に対し、その所属の職員が右闘争に参加しないように説得し、服務規律の維持と正常な業務運営を確保することに留意すべき旨及び職員が年休等の請求をしてもこれに参加することが明白な場合には承認せず、承認した職員がこれに参加していた場合には報告すべき旨通知する等の対策を講じた。そして、右の各休暇座り込み闘争の期間中、休暇の承認をえていた職員が座り込んでいるところを現認され、これに参加したものとして、その後同五六年二月二八日に休暇の承認を取消された件数は二二三件であり、職員の休暇申請に対し、右闘争に参加することが明白であるとして事前に承認されなかった件数は八七件であった。

(5) 原告らは、いずれも市職労の組合員であるが(これは当事者間に争いがない。)、原告笠谷及び同岸本は、右各休暇座り込み闘争が計画実施された当時の市職労の執行委員であり、原告加羅及び同田村は、それ以前に市職労の副委員長を経験している者であって、いずれも市教育委員会の米飯給食導入実施計画(委託炊飯方式)には反対の意見を有していたものである。原告加羅は、前記職場討議資料に基づく職場討議にも参加しており、また原告らは、いずれも本件各休暇の申請をしたときには、右各休暇座り込み闘争が計画されていることを知っていた。

(6) 原告加羅は、本件代休(午後半日)をとっていた同月五日の午後、二時半まで昼食及び喫茶をしたのち、同市役所に戻り、その後三時から米飯給食導入実施計画反対のための座り込みに参加した。同原告は、同月二三日についても二時間の年休をとり職場要求実現のための座り込みに参加している。

原告笠谷は、本件代休(午後半日)をとっていた同月四日の午後、西宮市内へ釣具の修理に出かけ、三時前に同市役所に戻り、三時から米飯給食導入実施計画反対のための座り込みに参加した。同原告は、同月五日にも半日の年休をとり同実施計画反対のための座り込みに参加し、さらに同月一九日及び二〇日にも半日または二時間の年休をとり職場要求実現のための座り込みに参加している。

原告岸本は、本件特休(一日)をとっていた同月四日の日、午前中は自宅で雑用をし、午後から市職労の組合事務所に出かけ、組合のビラ作りなどをしたのち、三時から米飯給食導入実施計画反対のための座り込みに参加した。同原告は、同月二三日にも二時間の年休をとり職場要求実現のための座り込みに参加している。

原告田村は、本件代休(午後半日)をとっていた同月四日午後、いったん帰宅して二時五〇分ころまで家事をしたのち、座り込みをしていることを予期しつつ同市役所に戻り、三時から米飯給食導入実施計画反対のための座り込みに参加した(ただし、原告らが本件各休暇日の午後三時から五時まで同市役所内での座り込みをした事実は当事者間に争いがない。)。

(7) 右各休暇座り込み闘争当時、原告加羅及び同岸本は福祉事務所に、同笠谷は社会経済部に、同田村は同和対策部にそれぞれ所属していたが、それらの事業場はいずれも同市役所内にある。

以上の事実を認めることができ、これに反する証拠はない。

(二)  右の事実によれば、市職労が右の各休暇座り込み闘争を、職員の勤務時間内である午後三時から五時までの間に行ったのは、市役所内の各業務の正常な運営を阻害するのが目的であったこと、右各休暇座り込み闘争により、被告の市役所内における各業務の正常な運営が阻害されたことが明らかである。

したがって、本件において、市職労の多数の組合員がその主張を貫徹するために市職労の計画に基づき同月四日及び五日の日の午後三時から五時までについて、集団的に休暇をとり同市役所本庁舎内で座り込みをするために職場を離脱したことは、その実質は休暇に名を藉りた同盟罷業であり、原告らの本件各休暇権の行使は、右の休暇座り込み闘争のためにしたものであるというべきであるから、原告らは、当該休暇日の午後三時から五時までについて右の実質的な同盟罷業に参加したものであると解するのが相当である。

原告ら各本人尋問の結果中、原告らが市職労ないし他の組合員とは無関係に本件各休暇の申請をしたものであり、右座り込みをしたのも個人としての行動にすぎない旨供述する部分は、前記各証拠に照らして信用することができない。

そうすると、原告らの本件各休暇権の行使は、少くともそのうち、座り込みに参加するための二時間分については、正常な労使関係を前提とし、事業の正常な運営と調和を保つべきことが予定されている代休及び特休の休暇制度の枠を超えるものであって、本来の休暇権の行使ではなく、代休又は特休権の行使としての効果を生じないものであることが明らかである。

(三)  しかしながら、被告は、原告らの本件各休暇権の行使のうち、右の実質的な同盟罷業のためにした二時間分に限らず、これを超える分についても休暇権行使の効果を否定し、欠勤扱いにした。

ところで、代休及び特休の付与単位については本件条例及び規則上、明確な定めがないが、特休は、前記のとおり本件規則一六条八号に基づき特休を与える旨の包括的な承認により認められているものであるところ、(証拠略)によれば、右の包括的な承認は、一月五日から一二月二八日までの一日につき「一日を単位として」与えるものとされていることが明らかである。そして、これは特休が被告において、同四六年宝塚市条例第四四号による改正前の本件条例六条三号により毎年四月一日が市制施行記念日として休日と定められていたことに代わるものである(このことは前記のとおり当事者間に争いがない。)という沿革に照らしても合理的であり、特休をこれ以外の単位で付与すべき合理的な根拠は見出し難いから、特休は、一日単位で付与されるべきものと解するのが相当である。

また、(証拠略)によれば、被告においては、従来から代休は半日単位で付与されることとなっていることが明らかである。そして、前記のとおり代休の根拠規定は本件規則七条であり、これによれば、代休は任命権者により日曜日もしくは休日に勤務を命じられて勤務した職員に対し付与されるものであるところ、右証言によれば、被告においては、職員に日曜日もしくは休日に勤務を命じる場合、半日もしくは一日単位で命じる(半日もしくは一日に満たない部分は超過勤務とする。)ことになっていることが認められ、これに反する証拠はないから、代休を半日単位で付与することには合理性があるというべきであり、休代をこれ以外の単位で付与すべき合理的な根拠は見出し難く、代休は、半日単位で付与されるべきものと解するのが相当である。

なお、特休及び代休の付与単位については、右のとおり各休暇の本質から導き出されるものであるから、これを予め職員に周知徹底させるべきであるとする原告らの主張は理由がない。

そこで、弁論の全趣旨によれば、被告が前記欠勤扱いの措置をとった理由は、右の代休及び特休の付与単位との関係上本件代休又は特休の一部についてのみその権利行使の効果を否定すると、それは、付与単位に満たない代休又は特休の権利行使を結果的に認めたこととなり、その効果を否定した時間分については、さらに改めて付与単位に満たない代休又は特休の権利行使を認めざるをえないという事態にもなりかねず、このようなことは、被告において統一的な休暇制度を維持する必要上容認することができないと判断したことによるものと認められる。そして、代休及び特休の付与単位が前記のとおり解されることに加えて、右措置の結果、原告らは右措置以降改めて本件で行使しようとした代休又は特休の権利を行使することができることになる(ただし、制限期間の経過により権利が消滅した場合は別である。)ことをも考慮すれば、右の被告の措置を違法ということはできない。

(四)  したがって、被告が原告らの本件各休暇権の行使について、それが適法な休暇権の行使にあたらないものとして、その効果を否定し、その日時について原告らが欠勤したものと取扱ったことは、結局、適法であるというべきである。

三  次に、本件賃金控除の適否について判断する。

1  弁論の全趣旨によれば、被告が本件賃金控除をしたのは、右のとおり被告は原告らが本件各休暇日の日時について欠勤したものとして取扱ったのであるから、原告らに対し同五六年二月分の賃金を支給するにあたり、右の日時分についての賃金を支給すべきではなかったのにこれを支給したとして、同年四月分又は五月分の賃金からこれを控除したものであることが明らかである。

右の賃金控除は、法律的には、賃金過払による不当利得返還請求権を自働債権とし、その後に支払われる賃金の支払請求権を受働債権としてした相殺であると解されるところ、右のような相殺は、過払のあった時期と給与の清算調整の実を失わない程度に合理的に接着した時期においてされ、かつ、あらかじめ職員に予告されるとか、その額が多額にわたらない等その金額、方法等においても職員の経済生活の安定をおびやかすおそれのないものであるときは、地方公務員法二五条二項による制限の例外として許されるものであると解するのが相当である。

2  (証拠略)によれば、被告においては、職員の給与は毎月一日から月末までの分を当月の一六日に支給することになっていること、被告は原告らの本件各休暇について同年二月二八日に承認取消をしており(これは当事者間に争いがない。)、したがって、そのころには原告らの同年二月分の給与が過払になっている事態を把握していたこと、被告は、本件両休暇闘争に参加したものとして休暇の承認取消をした職員に対し、同年三月分の給与から過払分の賃金控除の措置をとる旨表明していたが、同年三月五日市職労より問題収拾のため三月分の給与からの賃金控除は見合わせるよう申入れがあったため、これを見送り、結局、同年四月分給与から賃金控除を行うこととしたこと、原告田村を除く原告ら及びその他の組合員については同月分の給与から賃金控除がされたが、原告田村については事務手続上の誤りで同年五月分の給与から賃金控除がされたこと、原告らの各控除額は別紙一覧表「控除額」欄記載のとおりであること、以上の事実を認めることができ、これに反する証拠はない。

右の事実によれば、本件賃金控除は、清算調整を行うことが可能であった時点(同年三月一六日)から一か月ないし二か月の時点においてされたものであるから、合理的な時期にされたものということができ、かつ、あらかじめ原告らに予告されていたといえるし、その額も五〇〇〇円前後であって、原告らの経済生活の安定をおびやかすおそれのないものということができる。

したがって、本件賃金控除は、地方公務員法二五条二項の例外として許されるものと解すべきである。

四  そうすると、原告らが支払を求める各未払賃金請求権は存在しないことが明らかである。

よって、原告らの本訴請求は、いずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中川敏男 裁判官 上原健嗣 裁判官 小田幸生)

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